「いらない幸せ」と「ご褒美」

この記事を書いている今日は桜が真っ盛りです。天気も文句なく晴れて、当院のお隣の新宿御苑はお弁当を持ってそぞろ歩く人たちであふれていて、眺めていると、皆ののんびりした雰囲気に影響されてこちらまで頬がゆるんできます。「神は細部に宿る」と言いますが、人生の折り返し地点にさしかかった身としては、天気を楽しみ日差しを楽しみ風や花を楽しめる事のありがたさに感じ入ってしまいます。

さて、盛り上がった冬季オリンピックも季節が変わって過去になりつつある今こそ、男子スケートで金メダルに輝いた羽生弦氏の言葉を振り返ってみたいと思います。
金メダル二連覇を達成した羽生氏は、インタビューにこう答えています。
「連覇のためだけに幸せを全部捨てようと思いました。普段のこととか、考え方です。“あ、この幸せいらないな”とか。身近にあるものをすべて捨て去ってきた感じです」
「金メダルはいろんなものを犠牲にして、がんばってきたご褒美」

(目標達成のために)「この幸せはいらない」「がんばってきたご褒美」という感覚は、世界一になるようなアスリートと一般人では大きな隔たりがあるのは確かでしょう。羽生氏の言う「身近な事」の中には過酷な練習やプレッシャーはもちろん、恋愛や食べ物まで20代歳の青年らしい価値観のすべてが入っている事は想像に難くありません。
そのくらいコミットして捧げつくしたスターだからこそあれだけ輝いているのでしょう。

しかし背景は違えど、私たちも毎日のように似たような選択・選別はしています。
例えば身近な「食事」「生活習慣」ひとつ取ってもそうです。
食生活がうつ病などの精神疾患に影響がある事が立証されてきており、リワークの患者さん達も食事療法を取り入れています。
今までそれほど食事にこだわっていなかった人でも、栄養バランスを整えた食事にする時の「変化」に抵抗し、失うと分かって初めて「意識せずに食べたいものを食べていた幸せ」の存在に気づきます。
「これまでの身近な幸せ」と「栄養療法によって改善する健康(ご褒美)」とを天秤にかけて、何が自分にとって価値のある幸せなのかを精査するところから、自分との向き合いが始まります。

長く医療の現場にいる内に、身体にしてもメンタルにしても、不調は悪ではなく「もっと自分を大事にして」という声なきサインだと思うようになりました。
病は喪失と再生の連続です。
声なきサインに寄り添い、「自分を大切にする方法」を新たに学び取りながら再生の道を探して歩く事もまた、自分の人生のための選別・選択の日々だと思います。

当院クリニックの情報

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