新米日記16粒目 【病名を知りたいのに!!】



こんにちは、新米臨床心理士のM美です☂

夏のむわっとした風とは違い、少し秋を覗かせるような冷たい風が吹くようになってきましたね。
8月は雨ばっかりでしたので、9月にはぜひ晴れてほしいものです。

今週のテーマは【病名告知】です。
精神科ってなかなか病名を教えてくれないなあ。自分の診断はなんなのだろう。と感じている方も多いのではないでしょうか?

 

なぜ精神科・心療内科は病名をなかなか教えてくれないのか、 それにはいくつか理由があります。
今日はその理由についてお伝えしていきたいと思います!

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M美:「今週もI先生をお呼びしました!よろしくお願い致します。」
I先生:「よろしくお願いします。」

М美:「今週のテーマは【病名告知】です。精神科や心療内科は内科等とは違い、なかなか病名を教えてくれないところがあると思うのですがいかがでしょう?」
I先生:「たしかに内科なら数値やレントゲンなど目に見える形で患者さんと症状や状態を共有することができますが、精神科や心療内科は目に見えないものを扱っていますので、どうしても目に見える形で分かりやすく症状や状態を表すことができない部分がありますね。治療の雰囲気はがらりと違うかもしれません。」
M美:「内科なら検査をしてその結果『あなたはインフルエンザです』とズバッと言ってくれるので、病院はそういうもんだと思っている方は多いかもしれません。だからメンタルクリニックなどに行って何も言われずに帰ってくると『あれ?結局自分は何だったんだ?』、『もしや診断1つもできないヤブ医者だったのではないか…』と不安や不満を感じたりする方も少なからずいるかもしれませんね…」
I先生:「そう感じられるのも無理はないですね。もちろんいじわるをして教えないというわけではないのですが…むしろ精神科・心療内科で扱っているものの性質上、診断を下すという行為や病名を告知するという行為にはある種のリスクがあるんですよ。」

М美:「診断を下すリスク???病名を告知するリスク???」

I先生:「診断を下す行為には、主に医師側の問題ではあるのですが早すぎる診断は別の疾患の可能性を気づきにくくしてしまうと同時に『この疾患かもしれない』と思ったその目線でしかその人のことを見ることができなくなるというリスクがあります。なので、診断を保留するという行為は精神科の医師にとってとても大切なことなんですよ。診断をつけることが目的なのではなく、相手を理解しようするプロセスの中に診断はあるべきなのです。」
М美:「なるほど…『この人は○○かもしれない』という考えで頭がいっぱいになってしまうとその疾患にそぐわない△△な症状があってもそれを見落としてしまうというわけですね。」
I先生:「私はその見立て中でその疾患にはそぐわない部分があった場合は逆手にとって健康な部分を探し出すという手法を取ることがありますよ。」
М美:「ううう、それはとても高度な技術のように感じますね…!」
I先生:「違うところがあるとうれしくなりません?」
М美:「なるほどー(経験がなさすぎてわからないです…)」

М美:「次に病名を告知するリスクについてお聞きしたいです!」
I先生:「まず、病名とは分類であって病態ではないということがあげられます。」
M美:「病名は必ずしもその人の症状の状態を表したものではないということですか?」
I先生:「そうです。例えばうつ病と診断された人が2人いたとしてもまったく一緒の症状が現れるわけではありません。うつ病という用語はそもそも意味が広く、同じ病名を用いても症状の出方は人それぞれです。したがって治療法も人それぞれ、個人差に考慮したお薬や治療方法が選択されます。なので、病名を告知するよりも、いつごろ発症して今こういう状態だからこういった手当をしていくのがいいでしょうといった筋道を立ててあげる方が何倍も患者さんのためになるんですよ。」

М美:「なるほど!病名を告知するより患者さんに必要なのは治療方針、つまりは回復への筋道を示してあげることなんですね!!たしかに病名をつけるより主訴を丁寧に聴いて改善させる方が遥かに治療に結びつきますよね。」

I先生:「こういった見立てを聞くということは他者から照り返された自分を知る体験、つまり自分を理解する過程でもあります。このとき、医師は恣意的にならないように注意する必要がありますね。恣意的になってしまうとそれは洗脳になってしまいますので。」

I先生:「ほかにも医者が告知した病気と一般人が理解している病気の理解が食い違うことが多いということも病名告知のリスクと言えます。人はわからないものに直面すると不安になりインターネットなどを用いて情報を集めようとします。その際に自分の不安を和らげるのに合致した情報だけを拾ってしまう性質があるのです。」
М美:「自分を安心させる情報しか拾えなくなってしまうというのは先ほどの診断のお話にも通じるものを感じますね。」

I先生:「一方で、病名を告知することのメリットももちろんあります。なんだと思いますか?」
М美:「う〜ん…今のつらさは病気が原因であって一時的なものであることを伝えることで一生続くものではないという理解に繋がるとか?」
I先生:「おお!良い線いっていますよ。例えば、うつには罪悪感や焦燥感が伴うことがあります。それは症状の1つであり、本人の性格や行為の問題ではないということを知ってもらうために告知する場合もあります。必ず治るものであること、なくならないにしても苦しくない程度になるという希望を処方することは治療においてとても重要なことですね。」

I先生:「つまり、病名を告知するという行為は本人が『病者の役割』を担う手助けになるというメリットがあります。」

М美:「『病者の役割』???」

I先生:「これはパーソンズというアメリカの社会学者が提唱した考え方でして、病者には病者の社会的役割が期待されているというものです。」
М美:「病者にも義務があるということでしょうか?」
I先生:「そうです。1つは病気という状態に陥った責任は問われないという権利、そして2つ目は通常の社会的責務を免除されるという権利です。」
М美:「裏を返せば病気になったことを責める権利は誰にもないということですね。」
I先生:「3つ目は他者と協力して病気を治すように努めるという義務、そして4つ目は専門家、今日では医師の治療を求め、医師と協力するという義務です。」
М美:「社会的な活動を一旦休む変わりに、正当な治療者の治療を受けて回復に努めなければならないという新たに生まれた責任が『病者の役割』というものなのですね!」
I先生:「その通り!責任や役割の免除の変わりに治療に専念するという別の義務が生じているのです。『病者の役割』を担わなければ治療には結びつきません。病者であることを免罪符にしないためにも、自身が回復に努めなければならないという義務を担っていることを気付かせることは重要なことです。」
М美:「その1つの方法として病名告知があるのですね。」

I先生:「反面、病名を告知したことで患者さん本人やそのご家族が『もうどうにもならないんだ』と思い込み、治療を諦めてしまったり、希望を失ってしまうこともしばしばありうることです。病名告知は本当に慎重にすべきことなのです。」
М美:「ううう…告知って本当に難しい行為なのですね…」
I先生:「そうですね。だからこそ医師は患者さんやそのご家族の生きにくさを軽くし、希望を持って日々を送ることができるように、どの時期にどのような告知が必要なのかを常に考えているべきなのです。」

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いかがでしたでしょうか?

病名を告知するという行為にはメリット・デメリット、いろんな意味が含まれていたんですね。
何で病名を教えてくれないんだろう?という不安な気持ちが少しでもやわらげば幸いです。

それでは、また来週〜♪

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